コロナ収束後の貸倒損失の実務について
法人税法基本通達9−6−1〜9−6−3(第一部)
第一部として、貸倒損失の実定法上の根拠、貸倒損失に関する通達、損失の計上時期などについて主に9−6−1〜3の部分について、裁判・裁決事例を用いて説明をいたします。
貸倒損失の実定法上の根拠規定は、法人税法第22条第3項第3号の「その事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引にかかるものを損金の額に算入する」という規定のみで、その他は同第4号の公正処理基準のみとなります。
貸倒損失として損金の額に算入するには、その金銭債権の全額が回収不能であることを要し、貸倒損失に関する通達として、法人税法基本通達9−6−1〜9−6−3個々に規定を設けています。
9−6−1については、法律による貸倒れや債権者集会による切捨てのほかに、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」を損失の額とするという規定です。裁判例では、「債務超過の状態が相当期間継続し」などの部分についての判断が種々出ておりますが、実務上注目すべき部分は、「書面により債務者に通知をしている」という部分です。こちらにより、もし税務調査において、その債権について未だ回収不能とまでは言えないとして否認された場合、債権を切捨てる意思表示をした年度が確定するため、その時点で寄付金として扱われ、損金不算入とされた部分については、実際に回収不能となった場合においても取り戻すことが出来ないということです。
9−6−2については、「法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる」と規定されております。
ここで問題になるのは、全額回収不能という状態を何をもって判断しうるか、という点になります。全額回収不能かどうかの判断について裁判の中では全体として、一つの観点から回収不能というわけではなく、総合的に見て様々な観点からその債権が回収不能と判断すべき、とされています。全額回収不能についての判断基準について、以下のような裁判例があります。
大阪地裁昭和33.7.31 (行集9巻7号1403頁)
広島地裁昭和57.2.24 (税資(1~249号)122号355頁)
甲府地裁昭和57.3.31 (訟月28巻6号1265頁)
横浜地裁平成5.4.28 (税資(1~249号)195号199頁)
大阪地裁平成15.10.15(金判1178号19頁)
最高裁 平成16.12.24(民集58巻9号2637頁)
秋田地裁平成17.10.28(税資(250号〜)255号10184順号
など
また、貸倒損失の計上時期の問題や、9−6−2における損金経理の必要性などの論点について、昭和55年改正時の9−6−3改正点との比較や、法人税法上の他の損金経理要件との関連性からもその差異を感じることができます。
9−6−3については、「債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。」としています。金銭債権のうち、売掛債権に限定していることや形式基準を満たせば適用が可能なことなど、上記の2つの通達と比較すると性格を異にしており、特例的な取扱いが規定されています。9−6−1(4)や9−6−2と比較するとそれほど事実認定についての論点は多くはありませんが、債権の範囲・継続的な取引・備忘価額・損害賠償金に係る債権の貸倒(9−7−17)など注意点が存在します。
法人税法基本通達9−4−1〜9−4−2(第二部)
第二部として、子会社等を整理する場合の損失負担等(法基通9-4-1)、子会社等を再建する場合の無利息貸付等(法基通9-4-2)、災害を受けた得意先等を支援しようとする場合(法基通9-4-6の2)を発表担当とさせていただきますが、まず前提として、「もともと債権者の都合とはかかわりのないところで発生する貸倒損失とは異なる」という点です。一般的な貸倒損失は、債権者の都合や思惑とは関係なく発生する性質のものですから、子会社等のように経済活動をコントロールしている100%親会社にとって、子会社に対する金銭債権について、「貸倒損失」が生じるということは、考えにくい状況といえるのではないでしょうか。
債務者が完全支配関係(法法十二の七の六)のあるいわゆるグループ法人税制の対象となる法人である場合には、その全額が損金不算入となります。(法法37A)この場合には債務者側も益金不算入(法法25の2)しかしながら、業績不振の子会社等を整理する場合や、経営危機に陥った子会社等の倒産を防止して再建しようとする場合、さらには、災害を受けた得意先等を支援しようとする場合に、債権放棄を含め様々な形で利益供与を行うことを直ちに寄付金課税の対象にすることは実態に合わないため、法人税基本通達で子会社等の整理・再建等の費用として認められるものは寄付金に該当しないものとして取り扱う旨を明らかにしているのが法基通9-4-1、9-4-2、9-4-6の2であるが、これらはいずれも例示であり、そのことに「相当の理由」があれば寄付金に該当しない旨を明らかにしている。
そして、申告納税制度を前提とすれば、この通達の適用があるかどうかを最初に判断するのは、納税者(関与税理士)自身であり、納税者等がまず、「やむを得ず行った」「相当の理由がある」と判断することになりますから、その判断材料とした事情を説明すべき責任と権利が納税者等側にあるのです。
重要な単語として、支援、整理に【必要性】や【相当性】があるかという部分です。
単なる利益移転などの租税回避行為ではないか?必要性や相当性は支援側の立場である親会社で考えることとなります。
子会社の解散・整理について債権放棄等である場合には、その債権が生じた経過や、返済を怠った理由を調査するなど、通常の貸倒損失以外に注意を払う点が数多くあります。営利法人である親会社が子会社等に対して、なぜ、売掛債権等を滞るような管理体制であったのか?関係者(例えば親族の相続人等)から時効の援用をされた場合には、営利法人が時効中断の措置もとらずに放置してきたのか?なぜ、必要な返済を催促してこなかったのか?なぜ、この事業年度に支援損等の計上が必要になったのか?その間の金利の収受はどうであったのか?整理をしないと親会社側では架空資産の計上と同様になり対金融機関などへの社会的信用を失い、親会社の資金調達を困難とさせてしまう。などなど事前に確認することが数多くあります。
子会社等の再建であれば、その無利息貸付等が業績不振で倒産を防止するためにやむを得ずに行われたもので、合理的な再建計画に基づくものなのか、その行為に相当な理由があるのか、恣意的利益移転に当たらないかなどなどを個別の事例に応じて、総合的に判断することとなります。
災害を受けた得意先等の取引先に対して、その復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に、債権の免除をすることで取引条件の修正や今後の取引継続し販路を維持するためのものである場合には寄付金に該当しないこととなっている。この通達は、災害からの復旧が目的であるため、他と比較しても負担なく処理ができそうである。
貸倒損失についての講演ニュース(第三部 裁判実務)
裁判実務として、貸倒損失に関する裁判例3件と国税不服審判1件を報告する予定です。
裁判例の1件目は「貸倒損失の判定基準に対する運用と判断」に関する事案について大阪地裁平成9年5月30日の裁判例を取り上げます。「税理士としては、安易な見通しや自己の意見に基づいて、基本通達に反するような処理を行うことを指導・助言すべきではない。」として、基本通達について正確な理解を求めるとともに、安易に基本通達と異なる処理をすることのないよう判示しています。2件目は「貸倒損失の計上時期」に関する事案について最高裁第二小法廷平成16年12月24日判決民集58巻9号2637頁の判例です。「興銀事件」として有名な事件であり、第1部でも紹介する判例です。第1部では税理士としての切り口から紹介されますので、裁判実務に携わる弁護士の立場から判例の解説をする予定です。3件目は「子会社に対する債権放棄と貸倒れの基準」に関する事案として横浜地裁平成5年4月28日の裁判例を紹介します。第2部の寄附金に関連する裁判例で、子会社に対する債権放棄について基本通達9−6−1、9−6−2,9−4−1を根拠として貸倒損失が認められるかが争われた事案です。
「破産手続を行った場合の貸倒れの時期」に関する事例について国税不服審判例から1件紹介します。破産管財人をしていると破産債権者から、当該破産事件における貸倒れの時期に関する質問を受けることが多々あります。基本通達9−6−1においては、会社更生手続、民事再生手続及び特別清算手続について規定されているところ、破産手続については規定されていません。また、破産手続には破産手続開始決定、財産状況報告集会(債権者集会)、最後配当、破産手続終結決定といった重要な手続があります。これらのどの段階において、「貸倒れの時期」とするのかが問題となります。国税不服審判所平成22年6月26日審判において、破産手続終結決定が官報に公告した日をもって貸倒れの時期と判示しました。一般的には分かり難い破産手続についても説明しながら、上記審判例を解説する予定です。
貸倒損失に関する裁判例・審判例は多数あり、より多くの裁判例を紹介することも検討しましたが、総花的に紹介するよりも比較的著名な裁判例・審判例を紹介することが本研究集会の目的にも適うものであり、参加される皆さまにも有益と考えて、上記4事例に絞って紹介・解説をする予定です。なお、千葉会における事前勉強会の状況によっては紹介する裁判例に変更が生じる場合がありますので、ご了承ください。
こんな文章を書いているだけでも、損金経理を指導する税理士の立場として怖くなってくるような問題です。千葉税経新人会の貸倒損失研究チームと皆さまで一緒に学び協議をして参りましょう。コロナ収束後の顧問先様へ貸倒損失を指導する税理士対策として:::